人事課題の重心は『定着・活躍支援』へ パーソル総研調査が示す『攻めより守り』の人事部

人事課題の重心は『定着・活躍支援』へ パーソル総研調査が示す『攻めより守り』の人事部

目次

人事課題の重心が、新規事業を生む人材や次世代リーダーの育成から、今いる人材の『定着・活躍支援』へ移っています。株式会社パーソル総合研究所が、従業員300名以上の企業の人事・経営企画・経営層を対象にした「人事部トレンド定量調査2026」で明らかにしました。

研究所はこの変化を『攻めより守り』の姿勢が鮮明になったと表現し、人事が経営戦略に『取り残されつつある』と指摘しています。

打ち手として示されたHRBPの配置実態まで追うと、人事部門が事業の先をつくる役割を取り戻すための論点が見えてきます。

出典

この記事の要点

  • 2021年比で大きく増えた人事課題はメンタルヘルス対策・長時間労働の是正・定着/離職防止。重心は既存人材の『定着・活躍支援』へ
  • 減ったのは新規事業を生む人材の獲得と次世代経営人材の選抜・育成。研究所は『攻めより守り』と表現
  • 打ち手はHRBPを軸にした事業戦略と人材戦略の再接続。ただしHRBPは人事経験者が中心で、事業・経営の視点の補完が論点

パーソル総合研究所とは

株式会社パーソル総合研究所は、パーソルホールディングス株式会社の100%出資で1989年9月に設立された、パーソルグループの会社です。

事業内容は「調査・研究、組織・人事コンサルティング、人材開発・組織開発に関するサービスの提供」です。人と組織に関する調査・研究の成果を公開しており、今回の調査も2021年に実施した「人事部大研究」との比較を交えて結果をまとめています。

今回の調査は、全国の従業員300名以上の企業に勤める人事・経営企画・経営層2,000人に聞いたインターネット調査です(2026年3月実施、主な分析対象は内資系企業の1,934人)。

何が起きたか(ファクト)

パーソル総合研究所が2026年7月30日、「人事部トレンド定量調査2026」の結果を公表しました。

まず経営課題の上位は、「人材の確保・採用競争への対応」53.9%、「人材育成・リスキリング・最適配置」45.3%、「DX・AIを活用した業務変革・新たな価値創出」38.2%でした。採用だけでなく、配置・育成・デジタル活用まで含めた『人と組織の変革』が経営課題の中心にあると、報告書は整理しています。

これに対して人事課題(複数回答)の上位は、「従業員満足度・エンゲージメントの向上」36.0%、「最適な人員配置」35.7%、「従業員の定着/離職防止」35.6%でした。人材を確保するだけでなく、既存人材の活躍・配置・定着をどう高めるかが人事課題の中心になっています。

2021年調査と比べた変化(人事部の回答)では、次の課題が大きく増えました。

  • メンタルヘルス対策
  • 長時間労働の是正
  • 従業員の定着/離職防止

反対に、減少した課題の上位には「イノベーション、新規事業を創出できる人材の獲得」「次世代経営人材の選抜・育成」「企業のビジョンや理念の浸透」「従業員全体の能力向上を狙った教育訓練」が並びます。2026年の回答割合で見ても、「次世代経営人材の選抜・育成」は23.1%、「イノベーション、新規事業を創出できる人材の獲得」は16.5%で、上位の課題とは開きがあります。

報告書はこの変化を、人事課題の重心が既存人材を支える『定着・活躍支援』へシフトしていると説明しています。

人事部門が主導・関与する施策を見ると、人事が『主導』する割合が高いのは次の3つでした。

  • 新卒採用:79.1%
  • 中途採用:61.2%
  • 人事考課・評価の調整:48.5%

これに対し、『主導』の割合は「経営戦略・事業戦略の策定」で14.4%、「組織戦略の策定」で14.5%、「DX・デジタル化・AI活用の推進」で9.0%にとどまります。DX・AI推進では「原則関与しない」が49.1%で、報告書は『企業のAI推進に、約5割の人事部は関与していない』とまとめています。

人事部自身が挙げた内部課題でも、人員不足と専門性不足がいずれも4割台で上位に並び、「人事部門全体として『攻め』よりも『守り』が重視されている」も39.7%でした。

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トラキャリの視点:人事の手は『今いる人を支える仕事』へ

増えた課題と減った課題を並べると、構図ははっきりしています。

メンタルヘルス対策、長時間労働の是正、離職防止は、いずれも今いる従業員が健康に働き続けるための課題です。一方で減ったのは、新規事業を生む人材や次世代の経営人材といった、事業の先をつくる人材への手当てです。

人手不足が続くなかで、既存の人材を大切にする課題が増えるのは自然な流れです。ただ、経営課題の上位には「人材育成・リスキリング・最適配置」や「DX・AIを活用した業務変革」が並び、経営は人と組織をどう変えるかの設計を求めています。

人事の主導領域が採用と評価の運用に寄ったままだと、その設計は人事の外側で進みかねません。報告書も提言で『「人と組織」の意思決定が人事の外側で進んでいけば、人事部が存在感を失っていく事態になりかねない』と述べています。研究所が『攻めより守り』『取り残されつつある』と書いたのは、このずれを指しています。

HRBPも人事経験者が中心

このずれへの処方箋として、報告書は『HRBPを主軸に事業戦略と人材戦略を再接続すること』を挙げています。HRBPは、事業部門の側に立って人と組織の課題を扱う人事の役割です。

ただ、同じ調査でHRBPを設置している企業の回答者(n=380)に、HRBPに配置されている人材を聞いた結果は次のとおりでした(複数回答)。

  • 本社人事の経験者:45.5%
  • 人事企画業務の経験者:40.8%
  • 自社の事業部経験者:33.2%
  • 自社の事業部の幹部経験者:24.5%
  • 経営企画業務の経験者:22.9%

HRBPに就いているのは人事領域の経験者が中心で、事業部や経営企画の経験者は相対的に少なくなっています。報告書自身も『事業戦略と人事をつなぐ役割としては、事業理解・経営視点の補完が課題となる』と指摘しています。

戦略人事のための役職を置いても、その席に座る人の経験が人事側に寄っていれば、事業との接続は簡単には進まないということです。次世代リーダーの育成や新規事業を担う人材の確保といった『攻め』の課題を人事が取り戻すには、人事制度の知識に加え、事業を理解して人の打ち手に落とし込む力が求められる、と読めます。

HR業界から見たこの数字の意味

人事課題の重心が定着・活躍支援へ移ったという結果は、人事部門を支える側のビジネスにとっても示唆があります。

メンタルヘルス対策や離職防止のように『守り』の課題に応えるサービスと、次世代リーダーの育成や人材データを使った配置のように『攻め』の課題を支えるサービスでは、人事部門の期待が違います。報告書の提言には、人材データの一元化による配置・育成の高度化や、従業員の報酬と市場価値の乖離を埋めることも含まれています。

人事部門の内側で手が回りにくくなっている『攻め』の領域を、外部のコンサルティングやHRテックがどう補うか。人事部門向けサービスの提供価値も、この調査が示した重心の変化に沿って問われていくと考えられます。

関連動向:戦略人事を阻む要素と、人事組織の位置づけの変化

報告書は多変量解析から、人事部の戦略的パフォーマンスを高める要素として『5 essentials』を挙げています。

  • 職務範囲の脱・属人化
  • 処遇の市場化
  • 自律的キャリア選択
  • 社内/外の雇用流動化
  • タレントデータの一元化

5つの要素の実態を見ると、「昇格・降格の基準を明確に共有している」は22.2%、「ポジションが空いた場合には社内公募中心に異動が行われている」は25.9%で、2〜3割の企業にとどまります。社内公募や社内異動の仕組みづくりには大手企業でも動きがあります(関連記事:NTTグループ約10万人に『社内スカウト』)。

また、人事組織の社内での位置づけにも変化が見られます。2021年調査と比べ、人事組織が「統括部・本部」格である割合は41.0%から29.5%に下がり、「部」組織は31.7%から36.2%に上がりました。

報告書はこれを、人事機能が本部格への集約だけでなく、部組織を中心とした配置へ広がっている可能性があると説明しています。そのうえで提言では、『人事組織の社内における位置づけがやや下降して見えることにも、注意が必要』と述べています。

人事部門が実務運営の担い手から、経営と事業の成長を支える戦略パートナーへ進めるか。報告書が締めくくりに置いたこの問いは、人事部門の組織づくりと人材の集め方の両方に向けられています。

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