
自動車誌の三栄が『クルマの転職』で人材紹介に入った理由と分業の設計
自動車・バイク専門誌を数多く発行する株式会社三栄が、自動車業界に特化した転職エージェントサービス『クルマの転職』を始めました。
役割分担を見ると、三栄は自社の強みが活きる工程だけを受け持ち、紹介の実務は人材会社に任せる組み立てを選んでいます。
約80年分の読者・イベント・Webの接点を、どう人材ビジネスにつなげようとしているのかを読み解きます。
出典
- 株式会社三栄 プレスリリース「LINEで簡単に求職! 株式会社三栄 自動車業界に特化した転職エージェントサービス『クルマの転職』をスタート」(2026年9月2日・PR TIMES配信、レスポンス掲載)
- クルマの転職 公式サイト
- 株式会社三栄 会社概要
- 株式会社三栄 パブリッシング事業
この記事の要点
- 三栄は『集める・知らせる』側に徹し、面接・選考・紹介は派遣・紹介の実績を持つHRプロビジョンが担う分業型で参入した
- 強みは、40以上の自動車誌ブランドや東京オートサロンなどで築いたクルマ好きとの接点そのもの
- 人材紹介と求人広告、正社員と派遣を一つの窓口にまとめ、業界の人材不足に幅広く応える設計になっている
株式会社三栄とは
株式会社三栄は、東京都新宿区に本社を置く出版・メディア企業です。
1947年に『Motor Fan』の復刊とともに創業し、2027年に創業80周年を迎えます。
定期誌・ムックを合わせて自動車誌だけで40ブランド以上を発行しており、『OPTION』『ゲンロク』『AUTO SPORT』『F1速報』『モーターファン別冊』シリーズなどが知られています。
出版のほか、『東京オートサロン』『D1グランプリ』などのイベント主催、1990年代後半から続けるWebメディア、動画サービスも手がけています。
会社概要によれば資本金は9,800万円、従業員は141名です。
何が起きたか
三栄は2026年9月2日、自動車業界に特化した転職エージェントサービス『クルマの転職』を9月1日に正式に始めたと発表しました。
創業80周年に向けた記念事業の一環と位置づけ、背景には自動車業界で聞かれる『事業を拡大したくても人材が足りない』『人材不足により事業縮小も検討せざるを得ない』という声があるとしています。
サービスは、自動車業界で働きたい求職者と、人材を求める自動車関連企業をつなぐものです。
技術職に加え、営業・企画・管理部門まで幅広い職種を扱います。
求職者はLINEから無料で登録でき、派遣社員と正社員のどちらでの就業も目指せます。
企業側は登録と求人情報の掲載が無料で、採用が決まった場合に別途契約に基づく費用が発生します。三栄は『人材紹介』と『求人広告』の両面から支援するとしています。
運営は2社の分担です。
- 株式会社三栄: 募集導線の提供(イベント・誌面・Web)、プロモーション、コンテンツ制作、PR展開
- HRプロビジョン株式会社: 求職者の面接・選考、求人企業へのヒアリング、マッチング、紹介業務
HRプロビジョンは、自動車・半導体などの製造業向け人材派遣や、IT・システム開発分野のエンジニア派遣を手がけ、これまで多くの技術系人材を自動車関連企業へ紹介してきた会社だと説明されています。
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トラキャリの視点:三栄は『集める力』で人材ビジネスに入った
人材紹介は、求職者を集める、話を聞いて見極める、企業の要望を聞き取る、引き合わせる、という工程の積み重ねです。
今回の役割分担を工程に当てはめると、三栄が受け持つのは最初の『集める』の部分だけで、見極め以降はすべてHRプロビジョンが担います。
三栄がすでに持っているもの
三栄の手元には、自動車誌40ブランド以上、東京オートサロンやD1グランプリといったイベント、Webメディア、SNSという、クルマに関心のある人との接点がそろっています。
リリースでも、これらの自動車イベント・Webサイト・SNS・自動車専門誌を使って求職者に情報を届けるとしています。
接点を持つ相手が『もともとクルマが好きな人』である点も特徴です。三栄はサービスの狙いとして、入社意欲の高い人材とのマッチングや、採用後のミスマッチの低減を挙げています。
持っていないものは組む
一方で、面接・選考や企業へのヒアリングといった紹介の実務は、技術系人材を自動車関連企業へ送り出してきたHRプロビジョンに任せています。
派遣と正社員の両方を対象にできるのも、製造業向け派遣を手がける連携先がいるからだと読めます。
自社で一から紹介体制を組むのではなく、得意な工程を分け合う形で事業を立ち上げた、というのが三栄の打ち手の輪郭です。
出版社にとっての意味
三栄はこの事業の目的として、人材不足の解消にとどまらず、自動車業界全体の活性化や、モータースポーツ・イベント・メディアの発展、新たなファン層の拡大まで挙げています。
雑誌やイベントでクルマ好きと向き合ってきた会社が、その関係を『働く場所』の紹介にも広げる。専門分野の読者を抱えるメディア企業にとって、人材紹介は既存の読者基盤を新しい事業につなげる手段の一つになりうる、と考えられます。
掲載求人から見える対象の広さ
『クルマの転職』公式サイトでは、紹介する主な仕事として次の業種が挙げられています。
- 自動車メーカー/輸入車インポーター
- 自動車関連部品・用品メーカー
- カスタムショップ/チューニングショップ
- 自動車ディーラー/中古車販売店
- 自動車用品小売業/自動車リース業 ほか
掲載されている求人例を見ると、自動車販売営業や法人営業(自動車部品)、販売企画・マーケティング企画といったビジネス職と、車載アンテナ設計、エンジン開発試験、ワイヤーハーネス設計などの技術職が並んでいます。
勤務地も東京・神奈川・千葉から岐阜・大阪・滋賀・静岡・広島まで分かれており、年収の記載は380万〜700万円の幅に収まっています(いずれもサイト掲載の求人例)。
メーカーの設計職からカスタムショップまでを一つの窓口で扱う構成は、メーカーからアフターパーツ、モータースポーツまでを誌面で扱ってきた三栄の守備範囲と重なっています。
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