ウォンテッドリーが「Wantedly Hire」をAIエージェントに開放する狙い

ウォンテッドリーが「Wantedly Hire」をAIエージェントに開放する狙い

目次

ウォンテッドリー株式会社が、採用管理システム(ATS)「Wantedly Hire」を外部のAIエージェントから直接触れるようにする「Hire MCP Server」の提供を始めた。

ATSは候補者情報と選考の歩留まりが最も濃く溜まる場所で、それを他社のAIツールから読めるようにするのは、自社プロダクトの外側にデータの出口を開ける判断にあたる。

この一手は、同社が決算資料で繰り返している「Visit一本足からの脱却」という中期テーマの延長線上に置くと読みやすくなる。

出典

この記事の要点

  • ATSの中身を外部AIツールから読めるようにした。参照できるのはCSVで出力できる選考データに限られ、ユーザーの権限に応じて範囲が変わる。
  • 無料になるのは「プロフェッショナルプラン」以上。データ分析を厚くする機能が上位プランに寄っている価格設計と揃っている。
  • 背景には、主力のVisitが減収局面にあり、HireとEngagementの収益貢献を急ぎたいという同社自身の課題認識がある。

ウォンテッドリー株式会社とは

2010年9月設立、2017年9月に東証マザーズ(現グロース市場)へ上場した、証券コード3991の事業会社だ。代表取締役は仲暁子氏。

主力は会社訪問アプリとして始まったビジネスSNS「Wantedly Visit」で、給与や条件ではなくミッションや価値観への共感でマッチングする『共感採用』を掲げている。成功報酬を取らず、企業からは基本プランの月額とオプションで収益を得るモデルだ。

そこにつながり管理の「Wantedly People」、福利厚生・社内報・チームマネジメントをまとめた「Engagement Suite」、そして2024年11月にリリースした採用管理システム「Wantedly Hire」が並ぶ。

2026年8月期第3四半期末時点で、国内の登録企業数は4.5万社、登録ユーザー数は451万人(Visit・People共通のWantedlyアカウント数)。会計上は「ビジネスSNS事業」の単一セグメントで、プロダクト別の売上は開示されていない。

何が起きたか

2026年8月31日、ウォンテッドリー株式会社は「Wantedly Hire」にAIエージェントを接続する「Hire MCP Server」の提供を開始した。

MCPはAIエージェントが外部のツールやデータに接続するための規格で、今回対応したのはClaude、Cursor、Visual Studio Codeの3つ。採用担当者が個人設定でトークンを発行し、各ツールにサーバーURLとアクセストークンを入れれば、あとは自然言語で指示を出せる。リリースでは「今日、面接をする候補者の経歴と確認事項をまとめて」といった依頼が例に挙がっている。

現時点で提供されているのはデータ参照機能で、候補者情報の閲覧・検索、データ集計、選考状況の把握が該当する。参照できる範囲には明確な線が引かれており、リリースは『参照できるデータは、候補者情報や応募経路別の歩留まりなど、CSVで出力できる選考データのみです。なお、Wantedly Hire上の権限によって、参照できるデータは異なります』と明記している。

情報を更新できる書き込み機能は今後の提供予定とされている。

料金は、「プロフェッショナルプラン」以上を利用中の企業は無料、「グロースプラン」を契約中の企業は有償オプションという扱いだ。

⭐️

あなたにあった
「これからが、おもしろい企業」
一緒に探しませんか?

無料でオンライン30分キャリア面談を申し込む

トラキャリの視点:無料開放の線引きが、そのままHireの売り方を映している

注目したいのは、開放したこと自体より、どこで無料と有償を分けたかだ。

MCPで最初に開いたのはデータ参照、つまり集計・分析の入り口である。そして無料になるのは「プロフェッショナルプラン」以上で、「グロースプラン」では有償オプションになる。

ここで決算説明資料の価格体系のページを重ねると、線の引かれ方が見えてくる。同資料はHireについて『上位プランにはレポートビルダー機能を搭載』と記している。

つまりHireの価格設計では、もともと分析・レポーティングの厚みが上位プランの価値として置かれていた。MCPによる参照機能は、その価値を採用担当者が普段使っているAIツールの側に延長するものだ。無料の対象が上位プランに揃っているのは、機能の位置づけとして自然な並びと言える。

もう一点、ATSのデータを外部AIツールから読める状態にすると、企業側の日常の作業面は自社プロダクトの画面からAIツール側へ移りうる。それでもデータの置き場所と権限管理はATSに残る。権限に応じて参照範囲が変わる設計が明記されているのは、その線を保つための条件整理でもある。

ATSの競争軸が「画面の使いやすさ」から「どのAIエージェントからでも呼び出せるデータ基盤かどうか」へ広がっていく局面で、同社は早い段階でその入り口に手をかけたことになる。

深掘り:Visit減収局面で、Hireに求められている役割

この打ち手の温度感は、直近の決算を見ると掴みやすい。

2026年8月期第3四半期(2025年9月〜2026年5月)の連結業績は、営業収益3,429百万円で前年同四半期比7.4%の減少、営業利益は700百万円で同49.2%の減少だった。親会社株主に帰属する四半期純利益は1,378百万円と前年同四半期比59.0%の増加だが、これは本社移転に伴う移転補償金1,550百万円を特別利益に計上した影響が大きい。

決算短信は減収の理由を『Visitの新規受注数の減少等に伴い、ストック収益とフロー収益がともに前年同期と比較して減収』と説明し、費用面では広告宣伝費を中心とした先行投資を行ったと記している。決算説明資料でも『Q2に引き続き、中長期の成長に向けた事業基盤再構築のための先行投資を優先』と、投資を優先する局面であることが明示されている。

そのうえで同社は、Visitの立て直しと並行して『Engagement及びHireの収益貢献を進め、単一事業(Visit)への収益依存からの早期脱却を目指す』と記している。中長期の注力ポイントとしても、Visitで獲得した利益をマーケティング・開発を軸にPerk事業やHire事業へ投資し、成長を牽引できる事業を育てる方針が挙がっている。

Hireは2024年11月にリリースされたばかりの新規事業領域で、単一セグメント開示のため個別の売上は分からない。その段階のプロダクトで、上位プランの価値を押し出す機能を早めに投入してきた形になる。

深掘り:AI機能の投入はVisit側でも続いている

AIエージェントへの寄せ方は、Hireに限った話ではない。

決算説明資料の開発実績には、候補者リストをAIが作成・提案する「ソーシングAIエージェント」(2025年11月)、求職者がAIとの対話で希望条件に合う募集を探せる「キャリアAIエージェント」(2026年1月〜2月)、入社後のイメージを想起しやすくする「指名カジュアル面談」(2026年3月)などが並ぶ。

コスト面にも表れており、同資料は販売管理費の推移について『生成AIツールの利用増加に伴い通信費が増加』と説明している。

Visit側ではAIを自社プロダクトの中で動かし、Hire側では外部のAIエージェントに向けてデータを開ける。同じAI活用でも、プロダクトの立ち位置によって開き方が違うのが今回の面白いところだ。

SNSでHR業界の情報発信中

無料でオンライン30分