
カオナビ、上場廃止の先にある「AI駆動型タレントインテリジェンス」という本当の狙い
労働人口の減少と生産性向上という構造的な課題に直面する日本において、人的資本経営の実現は喫緊の課題です。
今、この課題に対し、AI駆動型タレントインテリジェンス戦略で挑むのが株式会社カオナビです。
同社は2025年6月、米カーライル・グループによるTOBを経て上場廃止・非公開化を選択しました。
短期的な市場評価から離れ、AIとM&Aを駆使した「人材データプラットフォーム」の本格構築という重要なフェーズを迎えています。
事業に資するHR人材を志向する方に向けて、成長産業、成長企業の実態に迫ります。
カーライルによるTOB:「短期の利益責任」からの解放
カオナビが今注目される最大の要因は、2025年2月にカーライル・グループによるTOBに賛同し、上場廃止・非公開化を選択したことです。
これは、短期的な利益責任から離れ、競争優位性確立のための戦略的な経営判断です。カーライルから以下の3点における支援を得て、機動的な投資と実行を目指します。
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マルチプロダクト化に向けたM&Aの推進。
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中長期的なグローバル経営の加速。
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優秀な人材確保と組織体制の強化。
FY25/3第3四半期実績では、売上高YoY+24.6%に対し、先行投資の結果、調整後営業利益はYoY-7.1%と減少しました。
目先の収益性よりも将来の成長を優先する、経営陣の意志の表れです。
健全なSaaS基盤(LTV/CAC 10.2倍)を持つ同社は、成長加速のため「時間軸の獲得」を優先しました。
これは、短期的な利益維持よりも、M&AやAI開発といった先行投資の実行力を優先した判断です。
長期的な変革のため、短期的なコスト増を許容し、将来の競争優位性に投資する経営判断の具体例として教訓を示すものです。

(出典:カオナビ 決算説明資料)
連結ARR95億円超:解約率0.41%が示す盤石な顧客基盤
カオナビはTMSのパイオニアとして安定成長を維持しています。
FY25/3第3四半期末の連結ARRは9,538百万円に達し、YoY+25.1%の増加です。
売上高は2,408百万円中、ストック収益が約87%を占めます。
TMS単体では利用企業数は4,115社(YoY+17.8%)に拡大し、タレントマネジメント市場における国内シェアNo.1の地位を盤石にしています。
盤石なユニットエコノミクス:LTV/CACは10倍超
カオナビのユニットエコノミクスは健全です。
連結業績および主要KPIサマリー
| 指標 | FY25/3 3Q 実績 | 前年同期比 (YoY) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 連結ARR (百万円) | 9,538 | +25.1% | 年換算経常収益 |
| TMS利用企業数 (社) | 4,115 | +17.8% | 国内シェアNo.1の顧客基盤 |
| 解約率 (LTM平均) | 0.41% | -0.05pt | 極めて低い水準を維持 |
| LTV/CAC (LTM平均) | 10.2 x | +0.1pt | 高いユニットエコノミクスの健全性 |
LTV/CACは直近12ヶ月平均で10.2倍と、高い健全性を維持しています。
特に、MRR解約率がわずか0.41%という低水準である点が強みです。
人事評価や配置といった基幹オペレーションに深く組み込まれ、カオナビは企業にとって不可欠な「データインフラ」として機能しています。
このデータ資産の蓄積が、新規事業やAI戦略を支える強固な顧客維持力を構築しています。

(出典:カオナビ 会社紹介資料)
TAMを8.4兆円へ拡張:市場を再定義するプラットフォーム構想
カオナビの成長背景には、日本の構造的課題があります。
生産年齢人口の減少が続き、労働生産性の向上が喫緊の課題です。
このため、従業員の「人的資本」を活用するタレントマネジメントが人的資本経営の中核として不可欠であり、カオナビの事業はこの広がる需要の核心に位置しています。
TAMを8.4兆円規模に拡大させるプラットフォーム構想
既存のTMS市場は約2,000億円規模ですが、カオナビの狙いはその先です。
非公開化を経て、人材データベースを基盤とした「人材データプラットフォーム」を構築し、隣接領域へ展開します。
この戦略が取り込む関連市場の総市場規模(TAM)は、約8.4兆円にも及びます。
カオナビのTAM拡大戦略と市場規模
| 市場領域 | 市場規模 (TAM) | 戦略上の位置づけ |
|---|---|---|
| タレントマネジメントシステム (既存) | 約2,000億円 | 顧客基盤の構築とデータ一元化 |
| 人材データプラットフォーム関連市場 (新規) | 約8.4兆円 | M&A・AI活用による事業領域の拡張 |
このTAMの再定義は、成長ポテンシャルを40倍以上に拡張し、トップライン成長を追求する戦略です。
この巨大市場への迅速なリーチには、M&Aによるマルチプロダクト展開が不可欠となります。
競合は代替手段と構造的非効率である
カオナビの真の競合は、特定のSaaSではなく、部門やシステムごとにデータが分断されている構造的非効率そのものです。
マルチプロダクト戦略の目的は、この分断解消にあります。
人事・労務・財務の経営情報を統合し、データ統合型の優位性を確立することで、従来の非効率なプロセス自体を競合として捉えています。

(出典:カオナビ 決算説明資料)
「感情」をAIで可視化:HRテックから経営インフラへの進化
コアプロダクトのTMSは、人事業務の効率化から戦略人事の実現までを支援します。
マニュアル不要のユーザーフレンドリーな画面とカスタム自在な人材データベースが特徴で、人材情報の可視化や最適配置の検討を支援します。
AIで社員の「感情」と「要約」を提供する特徴的機能
ビジョン「Talent intelligence™」の中核は、テキスト分析機能「インサイトファインダー」に実装された生成AI機能です。
このAIは、膨大な定性データを解析し、感情別の要約と、インサイトにつながる示唆をワンクリックで抽出します。
シニアHR人材はテキストマイニング作業から解放され、AIによる客観的な示唆を迅速に得られます。
この機能は、人事の役割を「データ管理」から「戦略実行」へと転換させます。
予実管理と労務管理へのマルチプロダクト展開
カオナビは「労務管理」と「経営管理」の領域にプロダクトを拡張しています。
労務管理システム「ロウムメイト」は労務手続きのペーパーレス化を推進し、予実管理システム「ヨジツティクス」は経営データの一元化を支援します。
特に「ヨジツティクス」には、将来的に人材データベースと連携した要員計画機能が追加予定です。
事業予算と人件費がシームレスに連動し、経営レベルの意思決定を支援するプラットフォームへと進化することで、「経営インフラ」としての地位を目指します。

(出典:カオナビ 会社説明資料)
4,100社データが駆動:高収益体質を目指す「Infinite Model」
カオナビ最大の競合優位性は、模倣困難な先行者優位性にあります。
国内シェアNo.1の4,115社以上の顧客基盤と、そこから流入・蓄積される高品質な人材データがAI戦略を支えるアセットです。
解約率0.41%という低水準は、人材データが業務に深く組み込まれ「ロックイン」状態にあることを示します。
この多様なデータの質と量が圧倒的優位性となり、AI時代のHRテックにおける「競争の基準」を確立します。
事業モデルの未来:HRSaaSとHRSolutionの両輪駆動
将来構想は、HRSaaSとHRSolutionの「両輪」が循環する「Infinite Model」です。SaaSでデータを集約し、AIが活用して高付加価値なHRSolutionを提供します。
データ蓄積によってAI精度とソリューション質が向上し、さらなる顧客満足度とデータ集積を促す無限の好循環を生みます。
カオナビは、SaaSからSolutionへと価値提供の中心を移し、データプラットフォーマーの地位を目指します。
非公開化が解き放つ成長ポテンシャルと定量目標
Infinite Modelの実現にはR&D投資とM&Aが必要であり、非公開化によって実行が加速されます。
この戦略の成功に伴う成長期待に基づき、以下の中期財務目標を設定しています。
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継続的なARR成長率:20%〜30%
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調整後営業利益率:FY28/3までに20%以上
この高い利益率目標は、現在の先行投資が、将来的に高マージンのHRSolution事業で回収され、高い収益性へのロードマップを示しています。
(出典:カオナビ 決算説明資料)
成長を加速させる組織:YoY+87名増員と自律を促す人事制度
マルチプロダクト開発と顧客基盤拡大のため、組織能力強化に積極的な投資を行っています。FY25/3末時点の正社員は382名で、前年同期から87名の純増です。
本記事はAIによるリサーチ/作成を活用しつつ、当編集部にて事実確認・加筆修正を行ったものです。ただし内容の正確性を担保するものではなく、一部に不足や誤りが含まれる可能性があります。そのため、ご指摘を頂き次第、内容は随時アップデートしてまいります。
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