
HERPはなぜ『ATSの会社』で終わらないのか——選考データが変えるマッチングの競争軸
採用管理システムを手がける株式会社HERPが、シリーズCで約19億円を調達しました。
注目したいのは調達額そのものより、その使い道です。同社はATS(採用管理システム)に溜まる選考データを、自社の求人メディアや人材紹介プラットフォームでのマッチングに転用しようとしています。
これは、採用のマッチングが『求人票に書かれた条件』から『選考の過程に残る文脈』へと軸足を移しつつあることを映す一手として読めます。
出典一覧
- 株式会社HERP プレスリリース「HERP、シリーズCで19億円の調達を実施。3年で3倍の組織拡大を予定」(2026年8月25日)
- DNX Ventures「Follow-on Investment | HERP (Series C)」(投資家による投資理由の公表)
この記事の要点
- 採用マッチングの手がかりが、求人票の条件から『選考に残る非構造化データ』へ移りつつある。HERPの一手はその流れの上にある。
- HERPはATS単体でなく、求人メディア・人材紹介プラットフォームまで自前で束ね、選考データが溜まる場所を押さえにいっている。
- 投資家が評価したのは、サブスク型SaaSから取引連動のマッチング事業への構造転換。19億円はその拡大に充てられる。
HERPとは
株式会社HERPは2017年設立のHRTech企業です(代表取締役・庄田一郎氏、本社・東京都品川区)。全社員で採用に関わる『スクラム採用』という考え方を提唱し、それを支える採用管理システム『HERP Hire』を中核に事業を広げてきました。
現在は『HERP Hire』に加え、タレントプールの『HERP Nurture』、リファレンスチェックの『HERP Trust』、月間利用者10万人以上という求人メディア『HERP Career』、人材紹介会社向けの求人提案プラットフォーム『ジョブミル』などを展開しています。『HERP Hire』と『ジョブミル』の累計導入社数は4,000社以上とされます。今回の調達に伴い、約100名の組織を2029年までに300名体制へ拡大する計画も示しました。
何が起きたか
HERPは2026年8月25日、シリーズCで約19億円(第三者割当増資と金融機関からの借入)を調達したと発表しました。累計調達額は34億円になります。引受先はJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、DNX Ventures、日本政策金融公庫です。
資金は組織拡大と採用強化に充てられます。そのうえで同社が掲げたのが、ATSに蓄積した選考の非構造化データを活用し、AIによるマッチング精度を高めるという方針です。従来の条件中心の仕組みではマッチングに至らなかった求職者についても、志向性・ポテンシャル・カルチャーフィットなどを踏まえて、新しい出会いをつくることを狙うとしています。
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トラキャリの視点:マッチングの手がかりは『条件』から『選考の文脈』へ
採用のマッチングは長らく、求人票に書かれた条件と、履歴書・職務経歴書に書かれた条件を突き合わせる作業でした。年収、経験年数、スキル、勤務地——文字にできる項目で絞り込む。この方式は分かりやすい一方、条件が少しでも外れた人は最初のふるいで落ちてしまいます。
HERPが使おうとしている選考データは、この求人票の外側にある情報です。誰を書類で通し、誰を面接で見送り、なぜそう判断したのか。選考の過程には、求人票には書かれない『その企業が実際に何を重視して人を選んでいるか』が記録として残ります。企業自身も明確に言語化できていなかった採用の基準が、選考の積み重ねのなかに埋もれている、という見立てです。
ここにHR業界の競争軸の変化が表れています。これまでは『どれだけ多くの求人・求職者を集めるか』が各社の強さでした。母集団の大きさが勝負だった。しかしAIが非構造化データを扱えるようになると、『集めた後、選考の過程でどれだけ文脈を蓄積し、それを次のマッチングに回せるか』が新しい差になっていきます。データが溜まる場所を押さえた側が有利になる構図です。
だからHERPの事業の広げ方には一貫性があります。ATS(HERP Hire)で選考データが溜まる入口を押さえ、求人メディア(HERP Career)と人材紹介プラットフォーム(ジョブミル)でそのデータを活かす出口を自前で持つ。入口と出口を一社で束ねることで、選考データを閉じずに回せる設計になっています。
そしてもう一段の『実は』があります。一見すると今回は『ATSの会社が追加のお金を集めた』というニュースに見えますが、実際にはHERPは事業モデルそのものを動かしています。追加投資したDNX Venturesは、その理由として、月額課金のサブスクリプション型から取引ごとに価値が生まれるトランザクション型への転換を挙げ、「既存の取引関係を越えて、これまで成立しえなかった新たなマッチングを生み出す市場の仕組みを成立させた」点を評価したと公表しています。ATSを売る会社から、マッチングそのもので稼ぐ会社へ——選考データの活用は、その転換を支える土台にあたります。
深掘り:ジョブミルとAIが示す方向
この構造転換の象徴が『ジョブミル』です。人材紹介会社どうしが求人と候補者をつなぐプラットフォームで、DNX Venturesは「これまでなら諦めていた候補者をマッチングにつなげられるようになった」という顧客評価を紹介しています。従来の商流では出会わなかった求人と求職者を、会社の垣根を越えて結びつける仕組みです。
AIの実装も進んでいます。同社の『HERP AI Recruiter』はβ版提供から約8カ月で200社以上に導入されたとされ、投資家はこれを「採用コンテクスト基盤の価値がすでに顧客に認められている証左」と位置づけています。3年で組織を3倍にする計画も、集めたデータをマッチングに変える事業を伸ばすための布石と読めます。求人・求職者を『集める』競争から、選考の文脈を『活かす』競争へ。HERPの一手は、その移り変わりを具体的な事業の形で示しています。
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